Parallax Anechoic Structure
Year: 2019-2020
Material: Lenticular lens, laser print, MDF.
Dimensions: H686xW697xD168mm

記録の限界について
インターネットの普及に伴って、芸術作品の伝播や消費、鑑賞の方法も実に多様になってきた。海外の展覧会風景やレビュー、アーティストの新作情報がインターネットを通じてボーダーレスに拡散・消費され、web マガジンやジャーナル、芸術情報をアーカイヴするプラットフォームがweb 空間に立ち上がっている。それらの新着記事はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で逐一、ユーザーの元へ広告とともに届けられている。芸術作品の鑑賞においても、Google ストリートビューで世界の美術館内を歩くことができ、時間を気にする事なく映像作品を自宅で鑑賞できる。こうした情報技術による発展と日常化は制作者に多大な恩恵を与えると同時に、セルフプロデュースのひとつの方法としても有効活用されている。
このような時代においては、作品の記録が担う力は非常に大きくなってきている。制作者は、展覧会の数ヶ月前に作品の画像を求められる場合が多い。ナマの作品よりも先に、作品の画像が世の中に配布される。展覧会の告知あるいは、作品の記録としての画像はインターネットや印刷媒体を経由して、世界中に配布・閲覧することが可能になる。そして、その画像の持つ求心力が作品や展覧会の評価等に少なからず影響を与えている。
こと立体作品やインスタレーションなどの空間を扱った芸術においては、記録の限界というものがあるだろう。立体作品は3次元のため、ワンカットの静止画像では全体像を記録することができない。また、実作と対峙した時に感じる作品の大きさや奥行き、肌理は記録が難しい。インスタレーションは空間を扱う芸術であり、構成要素の位置関係を立体的に鑑賞するものが多く、静止画での記録は印象を伝えるまでにしか及ばない。昨今では3D スキャナーと3D プリンターの普及に伴って、美術品の3D デジタルアーカイブが進められていることからも、将来的には立体作品の記録も“現在よりは” 正確になるかもしれない。
すべての人が平等かつ相互的に情報を扱えることは、革新的である。しかし、テクノロジーやメディアの進化に比べ、取り扱う人間の体感はゆっくりとした進化であることからも、ナマの作品と同じ空間を共有することの重要性は未だ変わらないだろう。つまり、作品制作する上で、記録の限界はネガティブなことではない。本作の表面は、見る位置で二つの異なる画像が現れる仕掛けになっている。それは、すべての表面情報を一眼で見渡せる視点はないということだ。
つまり、上の画像も“完璧” な記録ではなく「作品の一側面を暫定的に記録したもの」ということになる。(2019 年11 月)


Parallax Anechoic Structure
Year: 2019
Material: Lenticular lens, laser print, MDF.
Dimensions: Variable
(Installation dimensions: H175xW1575xD125mm)
Location: Tennoz Central Tower Art Hall, “Material with time”, Tokyo, 2019


Parallax Beam Structure
Year: 2019
Material: Lenticular lens, laser print, MDF.
Dimensions: H420xW80xD80mm
Location: Tennoz Central Tower Art Hall, “Material with time”, Tokyo, 2019

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